琉球語音声データベースの概要 琉球方言とは

英語や中国語のような話者の数が数億人という大言語から,話者が数人しかいない少数民族の言語まで含めて世界中の言語は,6千とも7千ともいわれている。しかし,その9割近くの言語が21世紀のおわりまでに消滅するのではないかと危惧されている。その消滅のスピードは絶滅危惧種の動物や植物のそれを上回るものと推定する専門家もいる。

明治8年に沖縄県として日本国に組み込まれるまで450年間も独立した国家を形成していた琉球王国の言語としての琉球方言(琉球語とも言う)も,話者の高齢化と若者への継承の断絶によってその存続が危ぶまれている言語のひとつである。琉球方言は,北は奄美大島,喜界島から,南は波照間島,西は与那国島にいたる全長が1千キロメートルに及ばんとする広い海域に点在する50余の島からで話されている言語の総称である。喜界島を仙台市に,奄美大島北端の笠利町を山形市に位置させると,那覇市は長野県松本市,宮古島は徳島県と香川県の県境,与那国島は広島県と岡山県の県境辺りに位置することになる。この広い海域に多くの方言が存在するために,列島内の方言差は非常に大きく,青森方言と鹿児島方言の差よりも大きいという研究者もいるほどである。発音や単語の違いはきわめて多様で,そのさまはガラパゴス諸島の生物になぞらえられる。

琉球列島の人口,面積ともに日本全体の約1パーセントにすぎないが,琉球方言は本土方言全体と対立する大方言である。すなわち日本語諸方言は,琉球方言と本土方言のふたつに大分類されるのである。琉球方言の研究は,日本語の起源の解明,琉球列島の歴史研究に寄与するだけでなく,一般言語学的にみても興味深い現象がおおいため,全国の言語学者,方言学者をはじめ,ニュージーランド,オーストラリア,アメリカ,ドイツなど外国の研究者が調査や研究のために訪れ,注目されている。

琉球方言音声データベース

琉球方言音声データベースは,琉球方言の文字情報,および音声情報をデータベース化し,情報通信ネットワークを介して共有,公開するシステムである。

本データベースは,琉球方言の文字情報だけでなく,単語や例文の実際の音声をインターネットをとおして聞けることが最大の特徴である。かな文字では書きあらわせない特異な発音をおおくもつ琉球方言にとって,文字とともに音声が聞けることは重要なことである。どんなに正確な発音記号も1回の実際の音声にはかなわないのであって,言語資料にとって「百見は一聞にしかず」である。また,方言の話者が高齢化・他界し,各地の伝統的な方言が消え去ろうとするなかで,文字情報と音声情報を同時に記録し,保存する本データベースは,琉球方言をはじめとする,消滅の危機に瀕した世界中の少数民族の言語の記録保存の方法としても最良の方法であろう。

●奄美方言音声データベース

長田須磨・須山名保子・藤井美佐子編著『奄美方言分類辞典』の文字資料をデータベース化し,著者である長田須磨氏自身が録音した奄美大島大和村大和浜(長田須磨氏の郷里)の方言の音声とリンクし,インターネットを介して公開するもの。平成14年度中の公開を予定。

『奄美方言分類辞典』は,その名のとおり収録されたすべての語彙が意味ごとに分類されていて,発音のわからない,あるいは和名(標準語)のわからない亜熱帯固有の動植物や琉球列島に固有な文化に関する語彙が検索できる。本データベースでは,この『奄美方言分類辞典』とリンクさせることによって,他のデータベースの分類による検索の幅をひろげることにつながり,利用者の便宜を一層はかることになる。その意味で奄美方言音声データベースのもつ価値は高い。

○奄美方言の特徴

奄美方言には次の特徴がある。

  1. 標準語の母音[e]に対応して中舌せま母音[]があらわれる。この母音を仮名で書くときには,小さいィを添える。
    (例)メィ[m](目)  ティ[t](手)
  2. 標準語の二重母音アイ[ai],アエ[ae]に対応して,中舌半せま母音[]があらわれる。この母音を仮名で書くときには,小さいェを添える。
    (例)テェーフ[thu](台風)   メェ[m](前)

●宮古方言音声データベース

宮古諸方言のなかの中央方言的な役割をもった平良市街地(下里,西里,東仲宗根,西仲宗根)の方言を文字情報とともに,音声をリンクして公開するもの。平成15年度中の公開を予定。

柴田武東京大学名誉教授が1970年から5年間宮古島で行った方言調査のノート(以下「柴田ノート」)をデータベース化し,狩俣繁久と仲間恵子が1998年から2000年までの3年間宮古島平良市で録音した下里方言の音声をリンクする。柴田武氏の調査した立津元康氏が下里出身だったので,同じく下里出身の下地明増,文ご夫妻の発音を録音した。

○宮古方言の特徴

宮古方言には次の特徴がある。

  1. 標準語のハ行の子音がpであらわれる。
    (例)パナ pana(花)  プニ puni(骨)
  2. 標準語の母音iに対応して,舌先母音が現れる。この母音を仮名で書くときにはちいさなをそえることにする。
    (例)ピトゥ ptu(人)  カビ kab(紙)
  3. ワ行の子音wに対応して,bがあらわれる。
    (例)バラ bara(藁)  バカムヌ bakamunu(若者)
  4. 上の前歯と下唇の裏側とのあいだで摩擦音をつくる子音f・vがある。仮名で書くとき,fa,fi,foは,ファ,フィ,フォと書く。va,vi,voは,ヴァ,ヴィ,ヴォと書く。
    (例)ッファ ffa(子)  ッフーッフ ffuffu(黒い)
    ッヴァ vva(おまえ)  
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